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ひとりひとり、ここにいることを祝福したい。

”The Point is not Points, the Point is Poetry” 「大切なのは点数じゃない、大切なのは詩だ」

これがポエトリースラムの精神です。

4年前、私がパリでポエトリースラムW杯に出会った時に感じたのも、この感覚でした。初めて体験する国際ポエトリースラム。詩をつくり朗読する人、それを愛する人が世界中から集まり、おたがいの声を交換し合う。味わったのは風がぬけていくような自由さ、まぶしいほどの多様性、そしてわずか3分のステージの圧倒的な存在感。スウェーデンの詩人が朗読した時、言葉が全くわからないのに、気がついたら涙を流していました。そのとき感じた自由や多様性にあこがれて「日本でもポエトリースラムの大会をやろう」と一瞬で決意したのです。

一方で、大会を続けながら問い続けていることもあります。なぜ得点をつけ勝敗を競うのか。パリの詩人は「それについて世界中のスラマーが語り合っているけど、まだ答えはないんだ」と言います。オーストラリアの詩人は「人間は勝ち負けが好きだからね」と答えてくれました。日本の詩人の友人に聞いたときは、ビールグラス片手に「戦いには2種類ある」という話をしてくれました。曰く、相手を打ち負かす戦いはバトル”Battle”だけど、競い合う戦いはコンピート”Compete”というのだ、と。コンピート”Compete”のイメージは岩山を登るようなもの。自分は自分の岩壁をひたすら登っている。ふと見渡すと、あちらの岩壁にもこちらの岩壁にも、同じように登っている人びとがいる。めざす頂上は同じかもしれないし違うかもしれない。ただそれぞれが登っていくあいだに、追い抜いたり追い抜かされたりしている。
ポエトリースラムはバトルではなくコンピート、そう考えると少し腑に落ちました。そうして、この大会を続けること自体が、山を登っていくようなものだとも思います。まだ見えない理想の頂上をめざして、一歩ずつ進んでいくしかないのでしょう。

自分で作った詩を自分で朗読すること。それは自分自身であること。
4年前のパリでのエピソードをもうひとつ、紹介させてください。Têtes Raides(テットレッド)という、フランスのベテランロックバンドがいます。実はわたしがフランスを訪れたきっかけは、このバンドにあこがれたことでした。そしてなんとパリで彼らと出会い、親しくなり、地方ライブに同行することになったのです。なんという奇跡。例えるなら、ジャッキー・チェンにあこがれて香港に行ったらジャッキー本人と仲良くなった!みたいなことです。彼らと一緒にランチを食べながら、興奮のあまりボーカルのクリスチャン(彼も詩人です)に、なんとかフランス語で感動を伝えたいと思いました。

「日本で何度もCDを聴いて涙を流した。テットレッドの曲を弾きたくてアコーディオンを習った。そのわたしがいまここで、あなたたちと一緒にランチを食べている。なんて幸せなんだ!」しかしフランス語に不慣れな私の口から出てきたのは

“Je suis la.”(ジュスィ ラ) わたしはここにいる。

たったこれだけでした。ところが、クリスチャンはそれが気に入ったらしく、

“Je suis la, Tu es la”(ジュスィ ラ、チュエ ラ) わたしはここにいる。あなたはここにいる。

と歌うように言って、それを面白そうに繰り返しました。 ジュスィ ラ、チュエ ラ、ジュスィ ラ、チュエ ラ、ジュスィ ラ…

思わずつられてわたしも一緒に歌いました。ふたりとも子供みたいにはしゃいでいました。あれほど最高だった時間はありません。その短いフレーズこそまさに詩でした。わたしはここにいる。あなたはここにいる。いまこの瞬間を共有している。最高じゃないか。

わたしは声と言葉を通じて、ポエトリースラムジャパンを通じて、わたしたちひとりひとりが存在していることを祝福したい。

ポエトリースラムジャパンへ、ようこそ。 おかげさまでこのイベントも今年で4年目、5回目の開催となりました。 これまで参加いただいたのべ306人の出場者、各大会のスタッフ、関係者のみなさん、そして会場に足を運んでいただいたオーディエンスの皆さんにあらためて感謝いたします。本当にありがとうございます。 ポエトリースラムジャパン は全員参加型のイベントです。会場に溢れる声を、言葉を、その時間と空間を、ぜひ積極的に味わっていってください。みなさんがそれぞれ「来てよかった」と思っていただけること、それがなによりの目標です。

ポエトリースラムジャパン 2018、楽しんでいきましょう。

 ポエトリースラムジャパン代表 村田活彦